前回の記事で、ウーバーは業務委託のうち「請負契約」にあたると解説しました。
雇用契約と請負契約は仕事をするうえで、取り扱いが全く異なります。
税理士法人時代、私が担当していたクライアントでも以下のようなことがありました。
・事業者同士がお互い同意のうえで業務委託契約を結んていたが、税務調査で契約の実態を指摘され「契約上は業務委託だが、実質的に見ると雇用ではないか?」と税務調査で指摘された
このように「雇用」と「請負」の判断は、実務的にもよく論点となります。
今回は、それぞれの違いを見ていき、ウーバーの働き方に当てはめてみていきます。
「雇用」と「請負」の違い
前回の記事で、それぞれの契約形態はざっくり以下のようなイメージと書きました。
「会社があなたを守るから、会社のルールに従って働く」主従的な契約
「独立した立場で、自由に事業者として働く」自由な契約
今回はもう少し深く切り込んで、解説します。
まず、雇用契約と請負契約の違いは「労働者性の有無」になります。
労働基準法で労働者は「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定められており、雇用主は労働者に対して労働基準法などの法令に従って雇用しなければなりません。
それぞれ契約は、以下大きく分けて3つの項目で区分が分かれます
雇用契約 | 請負契約 | |
労働者側に | 「労働」 | 「成果物」 |
指揮命令 | あり | なし |
労働者保護 | あり | なし |
労働者側に求められるもの
雇用契約は、民法第623条において
「労働者が行う労務に対して雇用主が報酬を支払うこと」を定義しています。
これは、「労働力」を対価として報酬を支払うことを意味します。
また、「時給」や「日給」、「月給」といったように、労働に対する報酬が支払われることに特徴があります。
請負契約は、民法第632条において
「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と定義されています。
「仕事の結果」とは、いわゆる「成果物」のことをいい、この成果物の納品を持って報酬を支払うことを意味します。例えば、システム開発を専門の会社に発注し、期日までに指定したシステムを納品してもらうような契約のことを言います。
したがって請負契約では、どれだけ労働をしたとしても、成果物の引き渡がなければ報酬は支払われません。
指揮命令の有無
雇用契約では、始業・就業の時刻が定められていたり、就業する場所が決められていたりするなど、雇用主に指揮命令があります。
働き方の実質で見れば、労働者側に仕事についての指示や命令を拒否する権利がない、拒否したくてもできない状況であれば、指揮命令があると判断され雇用契約となると考えましょう。
一方請負契約では、基本的に仕事をする時間や場所などに関して雇用主から指示されることはありません。
契約の結び方によっては、多少制約はあるかもしれませんが、請負契約では「成果物」を求められているわけですから、その過程において指示命令下で労働を管理するという考えは、基本的にないということです。
また、請負契約は指揮命令がないため、注文者からの依頼を拒否することができる点も、雇用契約と大きく異なるポイントです。
労働者保護の有無
雇用契約の場合は、雇用される側は「労働者」となるため、労働関係の法令の保護を受けることができます。
請負契約の場合は、注文者と請負人という関係となり「請負人」は労働関係の法令における労働者ではないので、労働者としての保護を受けることができません。
なお、主な労働者保護の権利は以下が挙げられます。
・残業代の請求
・有給休暇の申請
・不合理な理由での解雇・契約解除を拒否できる
・一定程度の範囲の損害は雇用主が負担する
条文から見るウーバーの働き方
事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者をいうから、個人が雇用契約又はこれに準ずる契約に基づき他の者に従属し、かつ、当該他の者の計算により行われる事業に役務を提供する場合は、事業に該当しないのであるから留意する。
したがって、出来高払の給与を対価とする役務の提供は事業に該当せず、また、請負による報酬を対価とする役務の提供は事業に該当するが、支払を受けた役務の提供の対価が出来高払の給与であるか請負による報酬であるかの区分については、雇用契約又はこれに準ずる契約に基づく対価であるかどうかによるのであるから留意する。
この場合において、その区分が明らかでないときは、例えば、次の事項を総合勘案して判定するものとする。
(1) その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
(2) 役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
(3) まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても、当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
(4) 役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
前半部分は、原則的な考え方についての記載で
いった感じの内容です。
後半部分は、契約で判断できない場合の詳細な判断項目の記載です。
(2)束縛される?
(3)完成品の引き渡しが出来なくても、対価を受け取れるか?
(4)サービスを行うために、何かモノの無償提供を受けた?
上記4項目から総合的に判断してね
といった感じの内容です。
ここで具体的に、4項目をウーバーに当てはめて見ていきたいと思います。
「はい」・・・請負契約
「いいえ」・・・雇用契約
→ウーバーの配達員は代替可能、替えが効くので請負契約
「はい」・・・雇用契約
「いいえ」・・・請負契約
→ウーバーは配達員の好きな時間に働けるので請負契約
「はい」・・・雇用契約
「いいえ」・・・請負契約
→ウーバーは料理を注文者に届けないと報酬を受け取れないので請負契約
「はい」・・・雇用契約
「いいえ」・・・請負契約
→ウーバーで使う自転車は自分の自転車であり、バッグはデポジット(預け金)方式の貸与なので無償供与とされないため、請負契約。
その他の業務委託契約とは?
ちなみに、前回「業務委託」は、「請負契約」のほか「委任契約」「準委任契約」をまとめて総称したものであるということを書きました。
委任契約・準委任契約は、受託した側の「事務、業務自体」を目的としている契約であり、何かしらの「成果物」を求めるのであれば請負契約とは異なります。
それぞれの契約も簡単に紹介します。
委任契約
委任契約は、民法第643条において
「当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。」とされています。
例えば、弁護士に事件の処理や代理人を依頼するような契約のことを言います。
準委任契約
準委任契約は、民法第656条において
「委任の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。」とされています。
委任契約と違って「法律行為でない事務」ということになります。
例えば、社内システムの運用を専門の会社に依頼するような契約のことを言います。
さいごに
ここまで、「雇用」と「請負」についてみてきました。
「請負」は、今後働き方の変化により増加することが想定されますが、「雇用」とは扱いが全く異なることや、色々こねくり回して契約を結ぶと、一方に搾取される可能性もあるのでしっかりとした理解、専門家への確認は怠らないことをお勧めします。
もし調査やなにかでここを見られたときは、原則は、契約で判断されますが、最終は実態で判断されるので、いくら完璧な契約書を作成したとしても、そこに働き方としての実態が伴っていなければそれは「絵に描いた餅」なので、「契約=実態」の整合性のズレがないようにしましょう。