今回は「アドセンス広告」「アフィリエイト広告」でも触れた「期ズレ」について注意すべき点について書いていきます。
会計上のルール
会計では、正規の簿記の原則に従って、売上や費用を計上することが求められます。
当たり前ですが、ルールがなければ、各々好き勝手なタイミングで売上や費用を計上するので、そこから作成される決算書については全く客観性、信頼性がないものとなります。
原則、売上については「実現主義」という考え方の下、売上を生み出す権利が確定したタイミングで会計上、売上計上します。
一方、費用については、取引の発生したタイミングで費用を認識する「発生主義」という考え方の下、費用を計上します。
どちらについても、実際のお金の入出金ではなく、取引実態を重視して計上されます。
ただ、これらのルールはあくまで大枠を定めているだけであって、何をもって実現主義の権利確定か、発生主義の発生かというところは、取引や会社ごとに異なります。
たとえば、ECサイトであれば
商品をお客さんに販売した場合どのタイミングで売上を計上すべきなのか?
・お客さんが購入のボタンを押した瞬間か?
・商品を発送したタイミングか?
・相手が商品を空けてモノを確認したタイミングか?
この場合の売上計上は、発送したタイミング or 相手がモノを確認したタイミングとなります。最初のお客さんが購入ボタンを押したとしても、こちらが商品を発送していないのであれば、あくまで相手の購入意思を受け取っただけで、取引としてはこちらも相手に商品を発送して初めて取引として成り立つと考えるのが自然であり、発送以降のタイミングで売上計上します。
発送のタイミングでの売上計上は「出荷基準」、到着後モノを確認したタイミングでの売上計上は「検品基準」と会計上いいます。
「検品基準」の方が、相手に届いてモノを確認してから売上計上するので、発送ミスや破損など不備があった場合などにも対応しやすく会計上売上の計上基準としては確実ですが、「出荷基準」に比べ売上の計上は遅くなります。
基本的に、どちらの方法を採用しても良いとされていますが、1回採用した計上基準は継続して適用してくださいという「継続性の原則」というルールが会計にはあります。
これは、費用の計上についても同様で、たとえルールの中であっても、コロコロと適用基準を変えることは、結局客観性や信頼性が担保できないため、適用基準を変えることに正当な理由がない限り一度適用した基準は変えてはいけません。
他にも会計上ルールはありますが、ある程度契約等に基づいて一度決めたルールに基づいて、継続的に売上や費用を計上していれば、問題になることはあまりないので、あまり厳密に考えすぎなくても良いとは思います。
期ズレとは?
では、ここで主題の「期ズレ」についてです。
「期ズレ」とは、本来計上すべきタイミングで売上や費用を計上しないことを言います。これは、同じ会計期間内で計上すべき時期がズレることではなく、会計期間をまたがってズレることを言います。
例えば、「出荷基準」で売上を計上している会社が、期末にシステム上は出荷したことになっていた商品が、人為的なミス等で実際は出荷されておらず、会社に在庫として残っていたとします。
経理は主にシステムのデータを下に会計入力をすることが多く、データ上出荷したとなっていれば、実際出荷していない場合であっても今期の売上としてあげてしまう場合があります。
これに気付かず、残っていた商品を翌期に出荷したのであれば、本来は翌期の売上として処理しなければなりません。
ここの会計上売上として計上した時期と実際計上すべき時期とのズレを「期ズレ」といいます。
意図的な期ズレ
「期ズレ」を意図的に利用した場合を具体例で見ていきます。
・A社は、B社に毎月商品100万円販売しており、B社以外の取引はないものとする
・A社は毎月費用が100万円発生するものとする(12月も同様)
・B社は1月に大量に商品が必要となり、毎月100万円分の発注以外にも追加で1,000万円分の商品をA社に発注したため、A社は追加分の商品について、×1年12月31日に商品を発送し、×2年1月1日に商品が到着しB社は検品をした
A社は、B社からのイレギュラーの発注がなければ、×1年の売上、費用ともに1,200万円のため利益は0のため、利益に関してかかる税金はありません。
しかし、A社は追加発注が発生し、×1年12月31日に商品を発送したことにより、「出荷基準」を採用しているため継続性の原則に基づいて会計処理をするならば、A社の×1年の売上は2,200万円となり、費用1,200万円を差し引いた利益は1,000万円となり、実行税率を30%で考えるのならば、300万円の納税が発生することになります。
ここでもし「期ズレ」を意図的に利用するとどうなるか?
追加発注について「検品基準」を採用していれば、売上1,000万円は翌期の×2年に計上されるため、×1年の利益は0にすることが考え方には可能となります。
どちらの計上基準を採用しても、遅かれ早かれ売上として計上されるが、特に小規模事業者の場合は、期末に大きな売上が上がると、時間的に節税策を講じる間もなく、一気に利益が出たことにより、多額の納税が発生することは、心情的に商品が売れるありがたさ反面資金繰り的には厳しいものとなります。
もし、×2年の売上となっていれば、1年間ゆっくり節税策を講じながら決算に備えれば良い訳で、この1日の差はかなりでかいです。
会計上認められた中でのルールの変更ではありますが、これは結局自分にとって有利なルールを恣意的に操作しているだけであり、「継続性の原則」のルールとしてはアウトであり、税務調査で指摘されればアウトです。
今回のように期末にこれだけ大きい取引であれば一瞬で指摘されると思います。
期ズレを指摘されないためには?
ルールの明確化
しっかり計上すべき時期を分かったうえでの意図的な「期ズレ」は悪質ですが、税務調査で指摘されるほとんどは、知らず知らずに「期ズレ」をしているパターンです。
この知らず知らずパターンは、結局のところ、現場側と管理側の連携や仕組み作りがうまくいっていないことや、会社としての計上基準をしっかり明確にしていないことが原因に挙げられます。
そのため統一したルール化は必要となります。
適用計上基準は安易に変更しない
会計は恣意性排除のため、「継続性の原則」により一度適用した基準は原則継続して適用する必要があります。この計上基準を変更する場合には、変更にあたり「合理的かつ正当な理由」が必要となります。
この「合理的かつ正当な理由」については、明文規定されていないないため、取引や会社ごとで個別に判断されることとなります。具体的にあるとすれば、
他の商品とは異なる納品方法による商品を販売する場合
恣意的な利益調整のためではなく、より適切に取引状況を反映するための変更
このような場合であって、かつ書類や状況的に合理的であると説明できるのであれば、変更が認められます。
ただ、計上基準を変更すると今までの処理と異なるため、過去との単純比較がしにくくなること、また商品ごとに計上基準を変えると会計上の処理も煩雑になるため、基本的には処理は統一して、継続することをおススメします。
取引先に納品日の調整依頼をする
計上基準を変更できないのであれば、取引先に納品日の変更依頼をしましょう。
今回の例であれば、到着日を1日、2日遅らせてもらうだけで、出荷日を4月1日以降に出来ます。相手との契約や関係性もあるとは思いますが、長い付き合いをしていくうえでこのようなお願い事をすることは、実務的にも少なくありません。
頼みにくいからと言って、無理やり「期ズレ」をするくらいであれば、ちゃんとまともに申告しましょう。
さいごに
ここまで「期ズレ」について見てきました。
期中の売上や費用の多少のズレは問題ありませんが、期末のタイミングでの売上や費用のズレの発生は、単年の納税額に大きな影響を与えるため、非常に税務調査でよく見られます。
曖昧になんとなく売上や費用を計上している人は要注意ですので、しっかり取引の性質を洗い出して、自分で明確な基準を作って、税務署に説明できるだけの根拠を持っておきましょう。